新宿区は民泊(住宅宿泊事業)に対して、思い切った規制強化に動いています。ニュースを見て、私は「ついにやってくれた!」と胸がすく思いがした一方で、調べていくうちに単純に喜べない話もたくさん出てきました。感情のままに賛成・反対を決める前に、一度きちんと整理してみたいと思います。
何が起きているのか
2026年9月、読売新聞では1面のトップ記事にもなっていましたが、新宿区は住宅地や学校の周辺で民泊の営業を原則禁止する方針を固めたと報じられました。しかも対象は新規物件だけではなく既に営業している施設も含まれ、現状の半数以上にあたる約2,000件が営業できなくなる可能性があるといいます。また、繁華街などの商業地域でも営業日数を年180日から120日に制限する方針となりました。
新宿区は住宅宿泊事業法に基づく届出住宅数が市区町村別で全国最多の3,775件(2026年7月15日時点)で、全国の民泊の約10%と、もともと民泊が突出して集中しているエリアだそうです。規制強化は2027年6月の施行を目指し、2年間の経過措置を設けたうえで既存施設にも適用するとしています。
関連サイト:民泊が全国最多の新宿区、住宅地や学校周辺の営業禁止へ(読売新聞オンライン)
「よくやった」と思う理由—苦情は5年で13倍
まず素直な感情から書きます。新宿区に寄せられる民泊関連の苦情は、令和3年度の70件から令和7年度は924件へと急増し、5年でおよそ13倍に増えたといいます。区はこれまでも法令違反を繰り返した29の事業者に業務停止を、5事業者には廃止命令を出してきましたが、それでも改善しませんでした。
区の担当者は「悪質な民泊に個別対応するマンパワーも不足している。一律で規制する必要がある」と述べています。ごみ出しルール無視や騒音に悩まされている住民の立場からすれば、正直なところ「よくやった」という気持ちだと思いますし、街のごみ問題に取り組んでいる私自身も同じ気持ちです。
関連サイト:届出状況及び苦情処理について(新宿区)
真面目にやっている事業者や既存の民泊も対象に
ここで冷静になって考えなければならないのが、規制が「一律」だという点です。ルールを守り、近隣説明も行い、24時間対応の連絡体制を整えて運営している事業者もいるはず。悪質な事業者への対応が追いつかなくなった結果とはいえ、真面目に取り組んできた事業者からすれば「なぜ自分たちまで」と思ってしまうのも当然です。
また、既存の届出住宅も対象になるということは、物件を購入・改装するために金融機関から借入れをして民泊事業に参入した人にとって、死活問題になりかねません。民泊存続が難しくなった場合、原状回復等の撤退費用だけで、1Rの場合30〜70万円、ファミリータイプでは100万円以上になると指摘する業界サイトもあります。経過措置が設けられたとしても、残ったローンの返済を抱える事業者にとっては大きな負担となります。
関連サイト:民泊撤退費用はいくら?原状回復で損しない3つの出口戦略(民泊大学)
国が示した民泊規制方針の転換
そもそも、これほど広い範囲を既存施設にまで適用できる根拠が生まれたのは最近のことです。観光庁は従来、営業日数を実質ゼロにする規制を「適切ではない」としてきました。
しかし、2026年7月15日、全国の地方公共団体に対する技術的助言(通知)でこの立場を転換し、「現に静穏な居住環境が著しく損なわれているなどの強い必要性が認められ、他に適切な対応策が存在しない場合には、既存の届出住宅に対しても営業を禁止したり制限したりすることも考えられる。」という趣旨が書かれています。
つまり、国として民泊禁止は「原則NG」とされてきたことが、この夏になって突然「条件付きでOK」に変わったことになります。これにより、今後は新宿区や豊島区(商業地域以外での新規開設を禁止)などに続き、自治体が独自の実情に合わせて「実質的な民泊営業禁止」とする動きが全国的に加速すると予想されます。
関連サイト:地方公共団体に対して民泊に関する通知を行いました (観光庁)
反発は起きないのだろうか
これだけ大きな方針転換だけに、慎重な見方もあります。JTB総合研究所の山下真輝フェローは読売新聞の取材に対し、既存施設まで一律に禁止する規制は「極めて異例」と指摘。区は苦情や指導の記録を示し、規制の必要性を事業者に丁寧に説明する必要があるとしています。私が見たYouTube動画でも、「これは死刑宣告だ!」と強く反発する声が上がっていました。
ちなみに、新宿区議会では約1年前、住居専用地域で民泊を営業できる期間を週3日から週2日に減らす改正案が提出されましたが、否決されているそうです。それから約1年で、既存施設にも適用する大幅な規制強化へと方針が変わったことになります。今後、条例改正に向けた議論が進む中で、既存の民泊事業者に対して規制の必要性を説明し、理解を得ていくのかが、大きな論点になりそうです。
関連サイト:新宿民泊はもうオワコンなのか!?(民泊YouTube大学)
地方(北海道)の民泊事情
一方で、新宿区のような都心部と地方では、民泊を取り巻く事情が大きく異なります。
たとえば北海道では、人口減少や空き家の増加が進むなか、民泊は空き家対策や地域活性化の手段の一つとしても期待されており、民泊専用のコールセンターを設置するなど、トラブル対策にも取り組んでいます。また、ニセコや富良野、北広島(エスコンフィールド周辺)などでは、増加する観光客の受け皿としての役割もあります。
もちろん騒音やごみなどへの対策は必要ですが、都心では規制強化が必要だからといって、全国どこでも同じとは限りません。民泊は「規制するか、しないか」だけではなく、地域の事情に合わせて考える必要があるのではないでしょうか。ちなみに、最近は民泊一体型セカンドハウス(二拠点生活+民泊運用)も流行っているみたいです。
関連サイト:北海道民泊コールセンター(苦情・通報)
おわりに
新宿区のニュースだけを見ると「迷惑な民泊がついに規制された」という単純な話に見えますが、実際に調べてみると、
- 既存事業者への遡及的な規制という厳しさ
- 借入れをして事業を始めた人たちへの経済的打撃
- あまり報じられていない国の方針転換
- 既存事業者の理解を得られるのかという課題
- 地方(北海道)では民泊がむしろ空き家対策の受け皿に
など、単純な賛成・反対では片づけられない要素がいくつも重なっていることがわかりました。騒音やごみ問題に苦しんできた住民の切実さも、まじめに事業を続けてきた人たちの不安も、どちらも実在する感情だと思います。だからこそ、この件を冷静に考えてはみたものの…私は以前に管理物件で違法民泊をされた苦い経験があり、どちらかというと新宿区の民泊規制強化には賛成です。
ちなみに新宿二丁目では、ソシアルビル(バーが入るビル)の最上階に家主さん自身が住んでいて、世代が変わるなどして空室になった際に、リフォームして民泊として貸し出すケースがあります。実際、弊社の周辺でもそうした例がちらほら。確かに騒音の問題は無さそうですが、新宿二丁目にはエレベーターのない雑居ビルも多く、大きなスーツケースを抱えた宿泊客が最上階まで階段を上り下りする姿を見ると、「本当にここで大丈夫?」と思ってしまいます。
最近はホテルの建設も相次ぎ、宿泊施設同士の競争はますます激しくなっています。民泊も、単に「泊まれる場所」を提供するだけではなく、ホテルや他の民泊との差別化が必要です。観光地へのアクセスの良さ、大人数で一緒に宿泊できること、キッチンや洗濯機など長期滞在に適した設備、家具や内装へのこだわり、管理体制など、その物件ならではの特徴をどう打ち出すか。これからの民泊は、規制への対応だけでなく、「選ばれる理由」をつくることも重要になってくるのではないでしょうか。


